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ひだまりスケッチ。


沙英とヒロ。なんかもやもや。


+ + + + + + + + + +

少し傾き始めた日が校舎を照らす、そんな時間。沙英は一人、自分の下駄箱の前で固まっていた。
委員会の用事があったので、ヒロや、ゆのや宮子は先にひだまり荘に帰宅していた。今にして思えば、先に帰ってもらっていて良かったと思う。
沙英の手には、ピンク色の可愛らしい封筒が握られていた。その口の部分はこれまた可愛らしいハート型のシールが貼られていて、差出人の名前はない。
どこからどう見てもラブレター……なのだが、そのセンスは明らかに「女の子」のもので。
意を決して恐る恐る中身を取り出してみると、「沙英先輩へ」から始まって、予想したとおりの気持ちを伝える内容が、少し丸い可愛らしい字で綴られていた。文末には「午後五時に校舎裏で待っています」という文言が添えられていて、思わず時間を確認した。五時まで後十分という時間だった。
沙英先輩、ということは、差出人は一年生だろうか。
今更この手紙が男子からのものだとは思わない(むしろ男子からのものだったら逆にこの装丁をどんな男子が施したのか興味がある)が、女子からの手紙となるとそれはそれで考え物だった。
実際のところ、こういう経験が今までなかったわけではない。不本意ながらというか、同性からのこういった手紙を中学時代にも貰ったことはある。バレンタインデーに冗談か本気かもわからないチョコレートを貰ったこともある。しかし慣れているかというと、そういうわけではない。
かといって、まるっきり無視できるほど沙英は強くはなかった。いつかのヒロがやったように手を回そうにも、もう指定の時刻はすぐ側に迫ってきておりそれも出来ない。何より、時間があったとしても沙英はそんな真似が出来るほど器用ではなかった。
……どうしよう。
いっぱいいっぱいな頭をどうにか冷静にして、今何をすべきかを考える。とはいえ、気持ちを無碍に無視することも出来ないのだから、すべきことと言ったら指定された場所に行くことしか無いわけで。
沙英は一つため息をついて、下駄箱から靴を取り出した。
もちろん答えは決まっている。悲しませることをわかりきっていながら、しかしそれを伝えに行かなければならない。校舎裏への足取りは重かった。


夕食の支度をしていたヒロは、ドアの開く音で隣の部屋の住人が帰ってきたことを知った。
時計を見る。五時半を少し回っていた。委員会の仕事にしては少し遅かったかしら、と夕食の味見をしながら考える。
その味に問題がないことを確認して、火を消した。おかずは既に出来上がっているので、後はご飯が炊き上がればすぐに夕食に出来る。
それまでの時間をどう過ごそうか、なんて考えるまでもなく、ヒロはエプロンを外して靴を履いた。
外はまだ太陽の名残が残っているけれど、ドアを開けたヒロの体を包むのは、ほの暗さと少し肌寒さすら感じる夕暮れの風だった。
住人が帰ってきた隣室のドアを叩く。
「沙英」
声をかけると、少し間をおいて「入って」という声が中から聞こえてきた。その声に元気がないような気がして、ヒロは少し心配になる。学校で何かあったのだろうか。
ドアを開けると、制服のまま机に突っ伏すように座る沙英の姿が目に入った。
「おかえり、沙英」
「ん、ただいま……」
ヒロが声をかけると、沙英はゆっくりと顔を上げた。しかし、やはりその顔からも答えた声からも、元気は感じられなかった。
とりあえず、おじゃましますと部屋に上がり、ヒロは沙英の横のソファに腰掛けた。沙英は、ぼんやりとそんなヒロに視線を向ける。
「どうしたの? 何かあった?」
優しくヒロが尋ねる。沙英はその言葉にぴくりと肩を揺らして、しかしすぐにヒロから顔を逸らした。
その反応だけで既に何かあったのだと言っているようなものなのだが、しかしそれをあげつらって仔細に尋ねるほど、ヒロは無神経ではない。
沙英に何かあって、それを言いたくないのなら、それを無理に聞き出そうとは思わない。でも。
「何か私に出来ることがあれば、言ってね」
出来るだけ、沙英の力にはなりたいから。
ヒロがそう告げると、沙英は逸らした視線を再びヒロに向けた。そして何か言おうとして、しかしそれを躊躇うように何度か口ごもり、最後には再び俯いた。
何があったかはヒロにはわからない。しかしこれは重症かな、とヒロの表情も曇った。
しばらく無言の時間が続く。それは十秒程度かもしれなかったし、もしかしたら十分ほど経っていたかもしれない。
唐突に、俯いたままの沙英が口を開いた。
「……ヒロは」
小さな声は、しかし静寂の包む部屋の中では十分にヒロの耳に届いた。
「ヒロは……もし女の子を好きになっちゃったら、どうする?」


「え?」
思いがけない言葉に、ヒロは思わず聞き返した。女の子を好きになったら、と、沙英はそう尋ねた。頭の中でその言葉を何度か反芻し、一単語ずつその言葉の意味を理解する。
ヒロが理解したのと同時に、沙英は再び口を開いた。
「今日……さ、放課後、告白されたんだよね、後輩の女の子に」
沙英は独り言のように、むしろヒロに聞かせるというより自分自身でかみ締めるように呟いた。
告白された、という言葉に、ヒロは自分の胸がざわつくのを感じた。それがいったいどのような感情なのかを、今は考えないことにした。
私が手紙を貰ったときの沙英もこんな気持ちだったのだろうか、と考える。
「昔もあったんだ、女の子に告白されたこと。そのときは、普通に断れた」
単語を一つずつ探るように、沙英は言葉を続ける。
「今日ももちろん断った。ごめんって」
その言葉に、ヒロの胸のざわつきは少しだけ落ち着いた。ただ、相変わらず落ち込んだ様子の沙英に、その凪も長くはもたない。
ヒロは再び沙英の言葉を待つ。
「でも、昔と違って……今の私は、わかっちゃうんだ」
「……なにが?」
「うん……その、告白してきた女の子の気持ちっていうかさ。普通じゃないって自分でもわかってて、相手におかしいって思われることに怯えてて……それでも好きって伝えることに、男子に気持ちを伝える以上に、どれだけ勇気が必要か、とか」
「……そう、ね」
そして沈黙が流れる。
沙英は優しいのね。気にすることないわ。仕方ないわよ。そんな言葉がヒロの頭に浮かんでは、しかしそんな表面的な言葉を並べても仕方が無いとわかっているので、消えていく。
「……その子、変なこと言ってごめんなさいって、気にしないでくださいって、笑ったけど、泣いてた。きっと本気で、私なんかのことを好きになってくれて、私なんかのために悩んでくれたんだと思う」
そこで、沙英は一度言葉を切った。そして、場違いとも思える自嘲的な笑みを浮かべた。
「強い子だった」
吐き捨てるような沙英の言葉。そして沙英の言葉はまた途切れ、大きなため息が一つ、零れた。


沙英が自分を責めているのはヒロにもわかった。そして、その理由も。
しかしヒロはその意味を知りたかった。沙英は、その子がどれだけ勇気を振り絞ったのかがわかると言った。そしてそれが、「今」だからわかるのだと言った。
ヒロは未だ顔を上げない沙英の横顔をじっと見つめる。
「……どうして」
ヒロの声は震えていた。
頭に浮かんだその疑問を尋ねるのが何故か怖かった。
「え?」
その声に反応して、沙英がわずかに顔を上げる。
「沙英は、どうして『わかる』ようになったの? その子の……ううん、『女の子を好きになった女の子』の気持ちが」
その問いに、沙英が小さく息を呑んだ。恐れるような、すがるような、曖昧な光を湛えたヒロの瞳を、沙英は見つめた。
ヒロは言葉を待っている。沙英は言葉を探っている。
「……どうしてだろうね」
何度か口を開きかけては、しかしそれを飲み込んでいた沙英は、自嘲めいた笑みとともに、ため息をつくようにそう言った。
もちろん、ヒロはその答えになっていない答えを求めていたわけではない。
口から、その言葉が出そうになる。しかしそれは、沙英にとってもヒロにとっても、口にしてはいけない言葉だと知っていた。
もしかして。もしかして、沙英も……。


「あー、もう!」
唐突に、沙英が椅子から立ち上がった。胸中でぐるぐると回っていた一言は行き場をなくし、ヒロはきょとんと沙英を見上げた。
「この話はおしまい! いくら悩んでも……あの子の気持ちには応えられないし」
心配かけてごめんね、ヒロ。
そう言って沙英は笑った。その表情にまだ影があるのは、恐らくヒロでなくともわかるだろう。
沙英は嘘をつくのが苦手だとヒロは改めて思う。
沙英が悩んでいるのは、「気持ちに応えられないから」じゃない。
「ねえ、沙英」
ヒロは沙英を見上げたまま、静かな口調で名前を呼んだ。
なに? と沙英が首をかしげる。その少し大きめのリアクションが、沙英の心がまだ晴れていない何よりの証だった。
「沙英は、弱くなんかないわ」
そっと呟かれた一言に、沙英の肩がぴくりと震えた。
「私も、その子の気持ちわかるもの。伝えられないことがどんなに辛いか……でも、伝えることがどんなに怖いか」
そしてヒロは視線を落とす。視界に入った沙英の拳には、ぎゅっと力が込められていた。
「……弱いよ、私は。ヒロに甘えてばっかりだもん」
仕事でも、普段の生活でも……この気持ちも。
うっすらと自覚していた。そして気付いてもいた。自覚していながら、気付いていながら、その気持ちに、今の関係に甘えていた。何も言葉にしないまま、伝えないまま、当たり前のように。
「それは、私も一緒よ。沙英に甘えてばっかり」
そしてヒロは笑う。沙英も笑おうとして、しかしそうしなかった。
「……いつか、ちゃんと気持ちを伝えられるくらい強くなるよ」
あの子が私に、勇気を出して伝えてくれたように。
沙英は何かに誓うようにそう言った。ヒロはそんな沙英に、優しく笑顔を向けた。
「私も負けてられないわ。沙英にも……その子にも、ね」
ヒロは少し悪戯っぽくそう言って、沙英はそんなヒロに顔を赤くしながら、ようやく二人は揃って笑った。

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無題
待ってましたよ沙英ヒロ!!

この、もどかしい感じが何ともイイですね~w
昨日合宿から帰って来たんですが、最終日がひだまりの放送日だったのでテンション高めでしたw

相変わらず二人が夫婦で満足です。
夏目さんと智花ちゃんを含めた沙英さん争奪戦が繰り広げられる事を期待しています(笑)

これからも素敵な小説を楽しみにしています。
頑張ってください!
七紀 2008/08/22(Fri) 編集
ありがとうございます
夏目さんと智花ちゃんを含めた沙英さん争奪戦。良いですね。
問題があるとすれば、夏目さんのキャラは非常に扱いに困r……なんでもない。
夏目さん好きです。

ではコメントありがとうございました。
風遊 2008/08/23(Sat) 編集
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