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ひだまりスケッチ。


沙英とヒロ。とゆの。

+ + + + + + + + + +

それは、様々な偶然が重なった結果だった。言うなれば事故だった。


大家が偶然昼間にヒロの家を訪ね、そのときに偶然珍しくチューハイなんてものを飲んでいて、そのうちの一本を偶然忘れていき、それを偶然ヒロが冷蔵庫に保管し、その後偶然ヒロの部屋を訪れたゆのが、偶然飲み物をもらっていいですかと尋ねて、「冷蔵庫の中に何か入ってると思うから、適当に飲んでいいわよ」とヒロが答え、その言葉に甘えたゆのが偶然ジュースのような外観のチューハイを手にとってしまい、それを飲み干してしまったのだ。
「それで今、こんな状態なわけね……」
ヒロの部屋にいつものようにやってきた沙英は、その偶然過ぎる偶然の結果として机に突っ伏すゆのを見ながら苦笑をもらした。


「ゆのさん、お酒飲んだら真っ黒になっちゃうから、このまま酔いが醒めるまで寝かせておこうかと思うんだけど……」
息を潜めるようにヒロは言う。沙英もその意見には賛成だった。
入学祝と称してお酒を飲ませたときの「悪夢」……と言うほどのものではないけれど、あの収拾のつかなさを思い出す。あのときのゆのはなかなか強烈だった。
「とりあえず、ベッドに寝かせたほうがいいかな」
「うーん、動かすと起きちゃいそうだから、なるべく触らないでおいたんだけど」
こそこそと、部屋の隅のほうで会話を交わしていると。
「あれ、沙英さん……」
ゆのの声が、唐突に響いた。その声は、いつもとそれほど変わりないように思えた。
「あ、ゆ、ゆの。おはよ」
既に酔いが醒めていることを期待しつつ、沙英が振り向きながらそう挨拶する。と、そこには未だばっちり目が据わったのままのゆのの姿があった。
「……おはようって、『お早く』が語源なんですよね。つまりは『朝早いですね』って意味なのに、どうして昼寝とかして起きたときにも『おはよう』って言うんでしょうね。イライラするんですよねそういうの。もっときっちりするべきだと思うんです」
……うわぁ、始まった。
ぶつぶつと俯いたまま無表情で呟くゆのに、沙英とヒロは揃って口をつぐんだ。このモードのゆのは、どんな些細なことにもこのように噛み付き、ひたすら独り言のように文句を言っては自己完結を繰り返す。というよりなんで知ってるんだそんなこと。
こんな性質の悪い酔い方をする人間もいるのだなぁと、以前は驚いたものだ。それ以来、このモードを出さないようにと、ゆのにアルコールは厳禁になったというのに。


「最近発泡スチロールとかビニール袋とか不燃物で出せって言うじゃないですか。でもビニール袋とかって火をつけると燃えますよね。じゃあ不燃物じゃないですよね。燃やしてはいけないなら禁燃物とか不可燃物とか言うべきなんじゃないですか。イライラするんですよねああいうの」
ゆのの攻撃対象は、いつのまにやらはるか彼方にまで行ってしまっている。沙英とヒロは下手に刺激しないよう、引きつった笑顔で嵐が過ぎるのを待った。
しかし、ゆのはそんな二人の思いとは裏腹に、ギギギと鳴りそうなくらいゆっくりと視線を動かして、その視界に二人を捉えた。びくりと、思わず肩が揺れる。
「……そういえば、沙英さんとヒロさんもはっきりしませんよね。どう見ても両思いじゃないですか」
その、あまりにもあっさりと投下された特大の爆弾に、沙英は思わず噴出し、ヒロも絶句した。
「沙英さんなんか見ててわかりやすくて仕方ないし、ヒロさんももう妻みたいですよね。というか小説家の夫とそれを支える妻ですよね。この前なんて思いっきりそんな理由で喧嘩してたじゃないですか。なのにお互い『わかってる』みたいな雰囲気で、周りから見てるとそういうのってもどかしいんですよね。どうせならはっきりしちゃえば」
「わー! ストーップ!」
沙英が大声を上げたのと同時に、バターンと大きな音を立ててゆのが再び机に突っ伏した。どうやら嵐は去ったようだった。


残された沙英とヒロの二人は、お互いに赤い顔のまま、そんなゆのを前に固まっていた。
「……ゆ、ゆのもとりあえず落ち着いたみたいだね!」
「そ、そうみたいね!」
取り繕うような沙英の言葉に、これまたヒロも同じように答える。少し裏返ったかもしれない。
そしてお互いの間に流れる沈黙。
「……あのさ」
「……うん」
「……そんな風に見えてたんだね、私たち」
「……そう、みたいね」
口を開くたびに、沙英は顔の温度が上昇していくのがわかった。それはヒロも同じで、赤くなった顔を隠すように、少し俯く。
「ヒロは……迷惑、かな。そんな風に思われて」
「そんなことないわ。むしろ、沙英が迷惑なんじゃないかなって……」
「まさか! 私は、その、ホントにゆのが言ったみたいに思ってくれてるなら……うれしい」
「……私も、うれしい」
赤くなった顔のまま、それをお互いにそらしてのやり取りは、どこか気恥ずかしくて、しかしきっかけがあまりにもおかしくて、そこでお互いにぷっと小さく吹き出した。
「なんだか、凄くおかしな告白になっちゃったな」
沙英はひとしきり笑ってから、改めてヒロに向き合った。お互いは、また笑い声から小さな沈黙に包まれる。
「好きだよ、ヒロ」
「私もよ、沙英……ふふ、ゆのさんに感謝しなきゃ、ね」
「そう……かな。うん、感謝しようか」
お互いに見つめあったまま、また笑顔を零した。そして沙英は笑顔のまま、ヒロの手を優しく握る。
「これからもよろしく」
「……うん、私のほうこそ」
そして、自然にお互いの顔が近づいて……
「ん、んー……? あれ? 私ここで何を……」
パッと、息もぴったりにお互い勢い良く離れた。
「あ、ヒロさん。私もしかして寝ちゃって……? あれ、沙英さんいついらっしゃったんですか?」
「えーっと! あー、その、ちょっと前にね、うん!」
妙にあわてた様子の沙英の様子に、ヒロは小さく笑みを零し、ゆのは不思議そうに首をかしげた。


酔いが醒めて、何も覚えていないらしいキューピッドは、結局最後まで抜け落ちた時間を見つけられず、終始クエスチョンマークを浮かべながら午後の一時を過ごすこととなった。
加えて、ヒロの「ありがと、ゆのさん」、沙英の「ありがとう、ゆの」という言葉にますます首を捻ることになったのだが、その理由をゆのが知ることはきっと無いのだろう。
それでも、沙英とヒロの二人がいつもより幸せそうだったので、それでいいんだろうなとゆのは笑顔を浮かべておいた。

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